会長あいさつ

第三の学びの扉は新たなるステージへ
~すべての子ども・青年に学びの機会を権利として~

「学校卒業後も学び続けたい!」「特別支援学校には留年はないのですか?」「社会に出るまでに、もう少し力をつけてから…」など、障害のある青年自身やそのご家族、また長年支えてきた学校教員などから、このような声を聞くことがありました。その一方で、障害のある人の学校教育が、後期中等教育段階(特別支援学校高等部、高等学校)の18歳で終わってしまうことが、どこか当たり前のような感覚を持たれている方も存在します。

後期中等教育を終えた後も、障害の有無に関わらず、希望する誰もが進学できる機会は、日本では十分ではありません。日本国憲法の他、わが国が批准している国連・子どもの権利条約や障害者権利条約に基づき、18歳以降も引き続いてすべての人に「教育を受ける権利」が保障されなくてはなりません。

私たちの先輩は、障害のある子どもたちの教育権を保障するため、養護学校義務制、高等部希望者全入を求めた運動を起こし、そしてそれらを実現させてきました。その過程では、関係者の理解を得ることはもとより、広く国民全体へとその必要性を訴え、そして国の教育制度や政策の不備を正すことで成し得てきたといえます。しかし、未だ残されている課題が、学校卒業後も学び続ける機会を保障することです。養護学校の義務制、高等部希望者全入に続く、障害のある子ども・青年の教育権保障を求める第三のうねりが、18歳以降の学びの保障を求めた取り組みになります。

特別支援学校高等部や高等学校には、3年制の本科に続く形で専攻科の課程を設けることができます。私たちは、この専攻科に注目して、障害のある子ども・青年の教育年限延長の機会を公教育として実現することを求めています。

後期中等教育段階の年齢は、「学校から社会へ」「子どもから大人へ」という二重の移行を迎える時期です。しかし、障害のある人は18歳で学校教育が修了してしまうことが多いのがわが国の実態であるとともに、就職(就労)して納税者になることをめざした学校教育を展開する例も存在しています。人格形成の面においても、「自分くずし・自分さがし」による自分づくりが営まれる重要な時期に、就職に必要な力だけが意識され、青春を謳歌するようなことが奪われたり軽視されていたりします。人生百年時代と言われるなか、なぜ障害のある人の学校教育が18歳までで終わってしまうのでしょうか。「障害があるからこそゆっくり丁寧に」学ぶことが必要にもかかわらず、社会への移行が早められそして適応することが、真に豊かな社会のあり方だと言えるでしょうか。

教育年限の延長や教育を受ける権利を保障するためには、後期中等教育の延長としての専攻科だけでなく、高等教育や社会教育の場も障害のある人に広く開かれて行かなくてはなりません。さまざまな形で、一生涯にわたる生涯学習の機会が障害のある人にも不可欠です。私たちは「専攻科」に注目することで、18歳以降も障害のある人の学びを権利として保障する必要性を、単に教育関係者だけでなく社会全体の問題として訴えます。ゆえに、18歳段階に存在する壁を突破する鍵が、「専攻科」の設置拡大にあると考えます。それとともに、生涯学習社会における学校教育のあり方やその中身についても検討していかなくてはなりません。

全専研が結成された2004年以降、知的障害を対象とした特別支援学校で高等部専攻科を設置したのは3例です。それまでに設置されていた7校を加えて、全国で国立1、私立9の特別支援学校にしかそのような場は存在しません。一方で、高等専修学校やフリースクールなどで、独自に「専攻科」の課程を設ける例もあり、教育年限延長のニーズを受け止める場が間違いなく存在しています。そして、学校での専攻科設置が進まないなか、障害福祉サービスを活用した「福祉(事業)型専攻科」を試みる動きも広がるようになっています。18歳以降も希望する人に学びの機会を保障する公教育の整備が、急がれる状況になってきているといえるでしょう。

私たち全専研には、専攻科の設置を求める人、実際に専攻科や学校卒業後の学びの場で学んでいる青年たちやご家族、それを支える教員や支援員などが集っています。一人でも多くの方に、この輪に加わっていただければ幸いです。

全国専攻科(特別ニーズ教育)研究会
会長 國本 真吾